パリ通信
読了日:2007/04/04
「パリ季記」がとてもよかったので、似たような感じかな~と思って読んでみた。
前作とはちょっと違ってパリの生活の話しだけではなくて、どちらかというと映画の話がほとんどだった。
よくよく見てみると、そういうコンセプトで書かれていた連載だったみたい。前作のような感じを期待してたのでちょっとだけがっかり。
何作品もの映画が紹介されてるんだけど、私が興味をもって観て見たいなぁ~って思ったのは「ロスト・イン・トランスレーション 」とハーモニー・コリンの「ケン パーク」かな??
マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮
読了日:2007/04/11
SFは久しぶり。緻密に作りこまれた世界で、読んでいて次第に引き込まれていくのが分かった。作者が丸ごと作り出す世界に巧く馴染めないことが多くて基本的にSFって苦手なんだけど、これは大丈夫だった。
初めのうちはやっぱり違和感を感じてしまうし、このマルドゥックの世界の規律や秩序を飲み込みづらかった。でもそこまでハードなSFって感じでもなかったかな?
魅力的だったのは登場人物!主人公のバロットと、彼女の相棒となるウフコックは本当に魅力的。2人のコミュニケーションはとても素敵だと思う。
ニシノユキヒコの恋と冒険
読了日:2007/04/20
さらりとして、柔らかで暖か。なのにどこかよそよそしくて、全てを見せてもらうことはできなかった。心地よい温度と湿度を保ったままで、心が激しく揺さぶられる出来事はなかった。
全てを受け入れて愛して、ずっとっ微笑んでいるような・・・。
ニシノユキヒコというひとりの男性が体験した、ほんの一部の恋と愛のゆくえを見た。
なんでかわからないけど、この物語は「読んだ」よりも「見た」がしっくりくるような気がする。
ニシノくんや西野君やユキヒコが体験した、恋。男の子だったり、男の人だったりしたニシノユキヒコ。どれも心地よかった。
トリツカレ男
読了日:2007/04/23
初のいしいさん作品。
すごくあったかくて微笑ましくて柔らかで、ちょっと切ない物語。
ペチカにトリツカレてしまった彼は、過去にトリツカレてプロ並みになった数々の特技を生かしてペチカの笑顔の曇りをとろうとする。他の何よりもペチカのために。自分のことよりもペチカのために。
たとえペチカが自分を見つめてくれなくても、全てはペチカのために。途中まではペチカのために奔走するジュゼッペの姿が微笑ましくて、心がポッとあったかくなるような気がした。
凍りのくじら
読了日:2007/04/27
初の辻村作品。よい。とてもよい。
主人公の冷めた感覚もわかるし、元恋人の壊れ方もわからないでもない。深海の色をした物語だと思う。
郁也の存在が救いで、別所さんの存在が盾。
なんだろう。イタイ話なんだけど、なんか好きだなぁ。
マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼
読了日:2007/04/28
2巻です。ますますヒートアップ!前巻はいーところで終わってしまったのでわくわく。
ボイルドとの戦闘からスタート。んで、更なる展開がわんさか。全3巻の中で一番好きかも!
中でもやっぱり一番の山場と思われるカジノシーン!
私はブラックジャックとかポーカーといったオトナのトランプゲームなんて知らないし、何よりもカジノ行ったことないから全然わかんないけど、それでもかなり引き込まれてグイグイ読んだ。
それにしても、魅力的なキャラがとりわけ多かった。
スピナーのベル・ウィング、ディーラーのアシュレイ。
大人との真剣勝負を通して著しく成長するバロットも素敵だったし。冒頭にあるウフコックに対する痛々しいまでのバロットの思い、「楽園」のドゥルードルディにドゥルードルディムとの出来事、さらにはボイルドとフェイスマンとの会話。全てにおいてなんかいいな~。やっぱり2巻が一番好きかも!
マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気
読了日:2007/04/28
読んでしまった3巻。最終巻。
前半カジノシーンが残りつつ、とうとう最後の決戦。ボイルドとの決戦。因縁であって宿命の決戦。もうすでにマトリックスの世界。巨体男と華奢な少女の決戦。前回の戦いとは全然違う。
とてつもない成長を遂げたバロットだけど、それはカジノでの戦いがあったからなんだよね。あれでより一層ウフコックとの絆が強くなったんだろうなぁ。
バロットやウフコック、ボイルド、シェルを通して全編で問い掛けられるような「自分自身の有用性」「自分自身の価値」の在り方。
SFでハードボイルドでしかもグロイのに、その精神性の強さはすごいと思った。読んでて頭が混乱する事も多々あったけどwボイルドとウフコックの話「ヴェロシティ」も読んでみたい。
シルエット
読了日:2007/05/09
哀しい。哀しい。切ない。ズレてしまうことがこんなに哀しいなんて。失いそうになってはじめて気付くなんて。暖かな優しい腕がこんなにも大切だなんて。無理矢理入ろうとしないことがこんなに優しい事だなんて。せっちゃんは素敵だ。
雷の季節の終わりに
読了日:2007/05/13
前作「夜市」(特に同時収録「風の古道」)がよかったので、読んでみた。イメージは「風の古道」に近い。
やっぱり背筋がゾクリとして、思わず闇に目を凝らしてしまう。
周りとは「異質」だと自覚する少年・賢也が、ある出来事をきっかけに、育った村・穏(オン)を後にする。賢也が旅をする。道なき道を、たったひとりの味方となった「風わいわい」と旅する。
「風わいわい」も物の怪というには可愛らしく、霊というには自我がありすぎる。まるで水木しげるの世界。「のんのんばあと俺」を髣髴とさせる。
現実の狭間にある異世界。恒川さんはそんな世界を書くのがとびきりうまい。現実味の残った異世界の設定とバランスが絶妙。
私としては、旅しているときよりも、穏にいるときの話のほうが面白かったなぁ~。
野ブタ。をプロデュース
読了日:2007/05/19
誰もが自分を「つくって」生きてる。親に見せる顔や友達に見せる顔、恋人に見せる顔に他人に見せる顔。
それを「着ぐるみを着てる」という修二。
野ブタを人気者にしようとする彼は、あらゆる「プロデュース」をする。それがまた、確かに理に叶った手法で色んな意味で感心する。
よく言えば「人間の心理をよくわかってる」悪く言えば「人を舐めてる」。
初めは前者だったけど、後半は後者の気持ちの方が強かったなぁ~。
ラストは自業自得のような気もしたけど、でも何かもう少し救いがあってもいいになーとも思う。でもそれが今の時代を反映してるのか?
間宮兄弟
読了日:2007/06/10
「あぁ、江國さんの世界だなぁ」って思いながら読んだ。
まるで親友みたいな兄弟は、やっぱり江國さんの描く人らしく、それぞれのこだわりや規律を持って暮らしている。でもふとしたきっかけで数人の女性にペースを乱されたりしながら生活している。その様子がまた、一生懸命で可愛らしい。
映画は見ていないけど兄弟のキャストは知っているので、読んでいる間中、兄弟の顔はあのふたりだった。読後は微笑んでしまった。ほのぼのだ。ほのぼの。
花宵道中
読了日:2007/06/16
やっべーね、コレ。マジで格好良くて艶やかで、したたかで切ない。
「さくらん」的なのを想像して読み出したんだけど、やっぱり漫画と文章では表現力が違う。表現できるものが違う。
5編の短編が全てなんらかの形でリンクしていて、読むほどに視点が増えて世界が広がる。一部しか見えなかった吉原遊郭の小見世「山田屋」と、それをとりまく人間模様がどんどん見えるようになっていく。
吉原で生きる花魁(女郎)達の、それぞれの生い立ちとそれぞれの恋と、それぞれの生き様。どれも格好良くて強くて脆い。
誰にだってひとつの物語がある。
霧里と東雲の『青花牡丹』、八津と三弥吉の『十六夜時雨』、三津と緑の『雪紐観音』が好き。
とりあえず1冊の本として完成度が高い。これでデビュー作って・・・!!
秋の牢獄
読了日:2007/12/10
やはりこの人は巧いな~と実感。珍しく短編でした。
表題作も合わせて3作。どれも独特の世界観や不思議さが備わってました。読みやすい文体も相変わらず。
ただ、前作、前々作と比べると、やや力や勢いが感じられなかったかな。売り(?)であるホラー要素も少なかった気がするし、先や結末が読めてしまうのが残念だった。
短編だったせいもあるのかもしれないけど、この方の作品は長編でダーっと読みたいな。その方がより恒川ワールドに浸っていられます。
雨の塔
読了日:2008/04/17
孤島。隔離。狭く閉じた世界。自由なのに不自由。過去と未来を抱えた少女たち。
著者が自身のブログで「思いっきり百合だ」と述べていたけれど、想像ほど百合ではなく、むしろ10代後半の子どもと大人の境目にあたる世代ならばぶち当たるであろう自身の存在意義に対する不安やおびえ・・・・といったものが根底にあると感じた。
タイトルからのイメージもあったけど、実際読んでいた日には雨が降っていて、感じたのは雨の日の湿って重い空気とその濃密さだった。
あたしは小津が大好きだなぁ。あの繊細さと優しさで壊れていく様が、とてつもなく痛々しくて美しい。
文章は相変わらず緻密で濃密な雰囲気を醸し出していて、宮木さん特有の繊細さが全面に出ていて美しかった。
白蝶花(はくちょうばな)
読了日:2008/05/28
相変わらず素敵なんだけど…今までの2冊と比べるとに感じたかな。
戦争という過去のリアルと絡みすぎてしまっていて、宮木さん特有の現実離れした美しさを感じにくかった気がする。慣れてないだけなのかな…。
そんな理由で、まだ想像しかできない時代の話「天人菊」がイチバン素敵でよかったやっぱり宮木さんの文章は、綺麗な着物の時代がよく似合うと感じた。
少女七竈と七人の可愛そうな大人
読了日:2008/05/28
まるで空から舞い降りてくる雪の結晶のような少年少女の話。
ひんやり冷たくて、息を呑むほど美しくて、触れてみたいのだけれど、触れると一瞬で姿を消してしまうような。まるで玩具箱の中の綺麗なお人形で遊んでいるような感覚。現実でありながら非現実のような世界。御伽噺のような。
七竃という植物を初めて知った。うつくしくうまれることを遺憾に思うなんて。
鮮やかな赤い七竃の実とマフラー。ビショップ視点の章がとても好き。むくむくがとても愛しい。淡々とした七竃の一人称と話し言葉がかえって切なさを際立たせる。
雪風の一人称もあると思っていたけれど、やっぱりあえてなしなのだろうか?
装丁がうつくしい。
カフーを待ちわびて
読了日:2008/06/07
沖縄のあの海や太陽や空気や風を感じた。
青い空。さわやかな風。照りつける太陽。白い砂浜。気持ちいい海。ゆれるガジュマルの葉。座り込んだちぃさなおばあ。聞こえてくるウチナーグチ。カフーの毛並み。明青の右手。幸の白いワンピース。フクジの木。デイゴの木。広い校庭。おばあの料理。家の石垣。ハイビスカス。
いろんな場面が目に浮かんで、沖縄に行ったみたいに錯覚する。
ゆったりして優しくて強い物語。
失ってしまう前に大切にしよう。日常の当たり前は当たり前じゃない。大きな心を持ちたい。
みっつ、数えればいいんだ。
逝年―Call boy〈2〉
読了日:2008/06/10
「娼年」の続編として執筆された今作。前作がとても好きで、期待して手に取ったのですが・・・。
正直、期待はずれになってしまった。「娼年」ではまだ未完成だったリョウが、たった1年で非の打ちどころのない完成品になってしまって、「娼年」の時のような危うさや不慣れな感じが一切ない。
出来すぎてしまってて、なんだかかえって物足りない。なんて説明すればいいのか・・・。
読まないでいた方が「娼年」の世界を保ったままでいられてよかったのかもしれない。
失はれる物語
読了日:2008/06/14
全体を通して切なく哀しい雰囲気が漂っていて、言葉選びが割と好きなタイプの作家さんだった。
『しあわせは子猫のかたち』『傷』が好き。
乙一さんは俗に「白」と「黒」に分かれるらしく、本書は「白」に属するらしい。他の「白乙一」も読んでみたいと思う。
59番目のプロポーズ キャリアとオタクの恋
読了日:2008/07/22
mixiの日記で読んだことがあるんだけど、(リアルタイムじゃないのが残念)書籍化してると知って、ぜひ手元に欲しいと思って購入。
本当に色んな意味での衝撃と、感銘を受ける。
59番さんもすごいし、アルテイシアさんもすごい。
ただの恋愛日記と思うなかれ。もっと深いから。人生や家族や愛情について、「自分」というものについて、もしも自分と同じ価値観じゃないとしても、絶対に何かを得る。
アルさんの遊び心と、59番さんのまっすぐさがすごい魅力的。
ゴールデンスランバー
読了日:2008/08/01
久々に伊坂さんを読んだ。相変わらず引力の強い話し・文体・手法だと実感。最近では珍しいほどの長編なのに、一気に読み終えてしまった。
やはり小説というものはコレぐらいの読み応えが欲しい。
この作品では過去に読んだものとは違う「時間軸」へのアプローチがされていて、これもまたまとまりがあって頭の中が整理しやすい。
登場人物が皆、味と魅力がいっぱいで、名言も多い。まぁそれはこの作品に限ったことではないのだけど。
失踪感、焦燥感のある話しでした。
もどかしさと悔しさと哀しさと、巨大な力に対する怒りと恐怖とが交錯する。