絲的メイソウ
読了日:2006/11/14
全体を通して面白く、特に「禿」について熱く語っている『禿礼賛』は私のツボにはまり、昼休みにひとりニヤニヤ笑う怪しい女と化した。
誰もが書いているとは思うけれど、絲山さんは男のようだ。「男前」というのか。ハッキリサッパリしていて、切れ味がよい。毎日丁寧に研いでいる包丁…いや、ナイフのようだ。一見殺傷能力の少ないと思われる小さなナイフで、滅多切りにされるのだ。
そしてとにかく毒舌。公的な場とされる出版物の中で、果たしてそこまで断言してしまってもいいものなのかと、私が心配になる。
◇アンチグルメ体験⇒こんなくだらないことに全力を注ぐ著者はステキだ。
◇講談社24時⇒非常に興味深い。あたしも探検してみたい。
◇下り坂ドライブ⇒わかる。わかってしまう自分のヨレヨレ加減がいやだけど、わかってしまうのだ。笑
◇自分の取説⇒1年2ヶ月前、当時大好きだった人に似たようなことを書いたメールを送ったことがある。笑える。
◇恋のトラバター⇒可愛いじゃないか、絲山さんw
国境の南、太陽の西RMX
読了日:2006/11/14
村上春樹さんの『国境の南、太陽の西』のトリビュート作品。
村上作品がどんなんなのかさっぱり解らないので、いったいどの登場人物がどのように交錯しているのかわからないけれど、これだけ読んでも特に支障はなさそうかも。
主人公の男の子が、同棲している女性を想いつつ初恋のことを思い出しているという設定。私の中では美しいままで語られる思い出よりも、現在一緒にいる女性・百合子さんの言葉の方が印象的だった。
袋小路の男
読了日:2006/11/15
表題作の主人公の気持ち、わからんでもない。私も彼女のようになる素質を充分兼ね備えているのです。
ここまでくると、すでに「好き」とか「嫌い」の範疇ではない。「執着」でもなく・・・。その相手が自分の中で存在することを、自分の細胞が渇望する感じ。見えない糸みたいな存在を信じずにはいられない。
でもどちらかというと、同時収録の「アーリオ・オーリオ」の方がすきかな。静かで、深い色してます。
「絲的メイソウ」からは想像できない、静かな3編の物語でした。
プリズンホテル〈2〉秋
読了日:2006/11/21
今回もすったもんだのてんやわんや。
主要キャラは少しずつ過去を晒しだし、今回の新キャラもまた濃い人ばかり。それでも軽く読めるテンポの良さは素晴らしい。
この巻で特に気になったのは、主人公・孝之介の心境の変化。
個人的にはどうも好きになれないキャラだけど、ひねくれていた彼が、清子の娘・美加を通して自分の過去を思い返し当時の感情を手繰り寄せ、さらに自分の過去とダブらせて見ているうちに、少しずつではあるけれど素直になってきたような…。
相変わらず格好いい仲オジの過去もちょっと暴かれたお話しだった。
A2Z
読了日:2006/11/23
詠美姐さんの作品の中で、あたし的順位はかなり上位です。かっこいー!ステキ!大人!素直!純粋!
「恋」と「愛」はちがうのね とか、恋愛と結婚はちがうのね とか、そういうどうでもいいつまんないことをいってはいけない!
これは、素敵な女性であり粋な大人である詠美姐さんが描いた大人による大人のための混じりッ気なし・純度100%の真剣な恋愛小説だ。
夏美さんかっこいい。一浩さん可愛い。こんな夫婦もありなんだなぁ~。ステキだ。
牛乳アンタッチャブル
読了日:2006/11/28
実際起こった「雪●乳業の食中毒事件」のパロディみたいな内容。
登場人物が自分達の会社を立て直そうと右往左往したり、管理職側の人間が事件の真相を隠蔽しようとしたする、その攻防を描いた作品。テンポがいい。
立て直そうとする側の人物が変に正義ぶってなくて、ちゃんと人間臭さがあるのがいい。痛快で爽快な感じもあるけど、ラストのバタバタとしたまとめ方がちょっと気になって、最後の最後でちょっと飽きてしまった。
それでも、「会社の体制って本当にこうだったら嫌だな」って思うほどリアリティがある部分もある。
ゆれる
読了日:2007/01/10
全体的に重くてドロドロ。人間の醜い部分、人に見せない部分がでてる。
親子・兄弟の「血」で連鎖する関係。陰と陽の関係。
内容に反して文章は読みやすい(でも男性、特に稔の言葉遣いがおネエっぽくて気になる)。ラストの方がなんだかごちゃごちゃしてしまって私の中で整理が付かなかった。
モヤモヤした気分で読了。内容的にもスッキリ終わっていない。それが現代の現実ってところですかね?何もかもがすっきりカタがつくと思ったら大間違いってこと?オダギリジョーが主演の映画も気になるところです。
陽気なギャングの日常と襲撃
読了日:2007/01/23
やっぱりおもしろいっ☆個人的には「地球を回す」よりもコッチの方が好きかな。
4人ごとにエピソード的な話しがあって、それが後々の4人集合の話しに繋がってくる。その1人ずつの話がおもしろいんだよね。
いつもなら4人の誰かが関わってくるときは視点が4人の中で回るんだけど、1人ずつの話の時はそれがないの。 ずっとギャング一人の視点なの(たまにそれぞれの話しの登場人物に変わるけど)。歯がゆいんだけどそれがまたいいんだよ!…って意味わかんない説明だな。とにかく読んでくれ!わかるから!
ヘヴンリー・ブルー
読了日:2007/02/08
同著者「天使の卵」「天使の梯子」の登場人物、「夏姫」目線の話し。2作品間の時間の中での夏姫の想いが綴られていた。
「天使の梯子」で感じたように、夏姫はとても人間臭くて、あたしとしては春妃より好感がもてると思った。もしも同じクラスに夏姫がいたら、友達になりたいと思う。春妃は自分にないものを持つ女性としてみてしまうから、ただの憧れで終わりそう。
もうすこし量的に読み応えがあるとよかった。「天使の卵」の映画化による特別出版みたいなものだったのかな?
江國 香織とっておき作品集
読了日:2007/02/08
今まで発表されていなかった彼女の処女作「409ラドクリフ」が収録されているということで手に取った作品。彼女が注目されだした頃の作品が数点と、彼女の家族(妹と父)の作品も収録されている。
やっぱり私は現在よりも過去の彼女の作品が持つ佇まいが好き。「きらきらひかる」のような。「ホリー・ガーデン」のような。「落下する夕方」のような。
「409ラドクリフ」は本当に彼女らしく、繊細で透明で真摯な話しだと思う。多少の実体験も含まれていると何かで読んだ気がする。
「とろとろ」は1993年の作品ではあるけれど、どちらかというと現在の作品の断片を感じる。「ラブ・ミー・テンダー」は本当に素敵。可愛らしくて愛らしい話し。「ぬるい眠り」も捨てがたくて、「なつのひかり」に似た印象を受ける。じわじわと落ちていく夕日のイメージ。
おもしろかったのは実妹が綴った「夢日記」。「江國香織」の作品の不思議を解く鍵が隠されていたと思う。納得せざるを得ない感じ。
父・江國滋氏の深い愛情を感じた「香織の記録」も素敵だった。いつかあたしも子供の記録を綴ってみたい。
ぼくは悪党になりたい
読了日:2007/02/21
ちょっと特殊な家庭環境で育った、平凡な17歳の男の子の話。
ささいな出来事で平凡な日常が変化する。「いい子供」で「いいお兄ちゃん」のエイジ。今時、家事をせっせとこなすいい子。ショックな出来事が重なってグレてみるつもりが、今まで平凡平和だったせいもあってヌケていて、グレきることができなかったのが可愛らしい。
特別劇的な出来事があるわけでもなく、ロマンティックな出来事があるわけではない。ちょっと変化のある日常。私はエイジの幼なじみの羊谷が好きだなぁ。かわいいじゃないか。変化した後の彼は。
人生ベストテン
読了日:2007/03/07
どこにでもありそうな「日常」を描いている短編集。でもなんだか重い。あたしには重く感じた。
江國香織さんにも何気ない日常を書いた作品はあるけれど、江國さんが描き出すそういった日常が「透明」だとするならば、角田さんが描き出すそれは「濁って」いるように感じた。
「浄化」する江國さんと比べて、角田さんは「沈殿」してしまう。
わざわざ「濁って」「沈殿」したものを見たくないのに見るしかなくて、目を逸らさず、或いは逸らせずに凝視している感じ。普段見てみぬふりをしている痛いところをついてくる。でもその目がこわい。チラ見や普通に見ているのとは違う。「凝視」してるから恐い。観察しているかのような「凝視」。
だから重い。あたしには重くて暗い。
死神の精度
読了日:2007/03/08
新しい『死神』像だなー、コレ。恐くもなく、威圧感もない死神。淡々と「死神」としての「仕事」をこなす死神。手抜きできるんだけど、結果はだいたい決まってるんだけど、それでもやるならちゃんとやりたい死神。なによりもミュージックを愛す死神。うん、新しい。
死神なんているかわからない空想上の存在なのに、この死神「千葉」(或いはその同僚達)だったらどこかにひっそり存在してそうな気がする。6つの短編から成るんだけど、どれもそれぞれ好きだなぁ。特に好きだったのは「恋愛で死神」「旅路を死神」。
いつも千葉の仕事の「最後」まで書かれていないんだけど、 「明日には…」って思うと切ない気分。(「恋愛で死神」はのっけから仕事完了時のことが書いてあるけど。)陽気なギャング以外初めての伊坂作品だったけど、やっぱり他の作品も読んでみたいな。
『誤りと嘘に大した違いはない。微妙な嘘というのは、ほとんど誤りに近い』
『同じものを食べた後で同じ感想を持ったり、好きな映画が一緒であったり、同じことで不愉快さを感じたり、そういうのって単純に、幸せですよね』
『最高ではないけど、最悪じゃない』
『動物とは異なる、人間独自のつらいことの一つに、幻滅、があるじゃないか』
『わたしは、凄く大切なことを知ってるから。人はみんな死ぬんだよね』
パリ季記―フランスでひとり+1匹暮らし
読了日:2007/03/12
昔から気になる人・猫沢エミさん。そんな彼女のパリ生活を振り返ってのエッセイ。
『パリに留学。アパルトマンで一人暮らし』という言葉の華やかで楽しそうで開放的な響きとは裏腹に、悪戦苦闘や奮闘、自問自答にカルチャーショックなど、リアルな「生活」としてのパリの日々が書いてあります。
彼女の視点から見て彼女の感性で捉えたパリは、とっても気難しくて、とってもアムール。
新しい言語を習得するということの大変さ、知らない文化・土地に馴染むことの大変さ、と共に新しい自分・新しい友人との出逢いの素晴らしさ、「日本」という国の素晴らしさの再発見など、ハッとすることがたくさん。
陰日向に咲く
読了日:2007/03/26
「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Overrun」「鳴き砂を歩く犬」の5編から成るんだけど、全体の流れや、それぞれの短編とのリンクのさせ方がうまい。この人、いっぱい本読んでると思う。
特に好きだったのは「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Overrun」かな。
どれも一生懸命な様がリアルでぐいぐい読めた!しかしどうしても登場人物像を想像すると「劇団ひとり」になっちまう。ひとりさんが演技してるしてるのが思い浮かんじゃって、素直に物語を楽しみきれなかった。
文章力はまだ荒削りな感じで、人物の言葉遣いやシーンの描き方はいまいちリアリティがないのもあったかな。短編で構成したから余計にネタっぽさを感じてしまった。でも巧い。また書くんだろうか?
風味絶佳
読了日:2007/03/26
6つの短編で構成される本書だけど、どれもなんだかちょっと香ばしい香りがする。ちょっと焼けすぎてしまったような香ばしさ。ちょっとビター。
私としては「風味絶佳」「間食」「夕餉」が面白かった~。
「間食」の同僚と、「風味絶佳」のグランマが好き。皮膚の一枚下に衝動や暖かさを隠しもった本だった。詠美ねーさんらしい。甘さと苦さが絶妙。
そうか。それが風味絶佳か。
夢を与える
読了日:2007/03/27
タイトルに反して、「なんて救いようのない話だろう」と思った。
幼い頃からちやほやされて育ったにも関わらず、夕子は純粋だった。そんな夕子の溌溂さや爽やかさ、健やかさは中盤以降なくなる。少しずつ「大人」を知り、「矛盾」を感じ、「飾る」とことを覚え、両親の「事実」を知る。
最後に「恋」を知ったことで、夕子の人生は決定的に変わる。
どんどん周りが見えなくなって、自分の中に湧き上がる不安や疑惑を見えない振りして突き進む。そして取り返しのつかない事態を招く。気付けば変わらず隣りにいてくれたのは母だけ…。
初めの真っ白で可愛い夕子を見続けていた読者にとって、ラストの夕子の姿を見るのはとても辛いことだと思う。
なんて救いようがないんだろう。一生懸命作ったお城が、突然ぐしゃりとつぶれる。砂の城だった事に気づく。
ひとりの少女の成長を見続けている気持ちになった。それこそチーズのCMを見て夕子の成長を喜ぶ視聴者のように。
ラストの夕子の言葉は絶望に包まれていた。
『無理やり手に入れたものは、いつか離れていく。そのことは、お母さんが誰よりも知っているでしょう』
彼女はこの後、歩き出すのだろうか?うずくまるのだろうか?
美丘
読了日:2007/03/28
カバー写真の綺麗さと静謐さに息を呑む。モデルさんを調べてみたけど、AV女優さんだった。
タイトルにもなっている「美丘」という女性を愛した男性・太一が語り手となり、過去を回想する形で静かに密やかに物語は進む。
美丘に対して一貫して「きみ」と語りかける太一。(一度だけ名前で呼んだような…)その「きみ」の響きが慈愛に満ちていて、ラストが近づくにつれて切なくて哀しくて仕方なくなった。
帯にも書いてあるし、物語の冒頭をにもはっきりわかるように書いてあるので、最終的には美丘が死んでしまうことはわかっているんだけど、それでも、太一の世界でのびのびと自由気ままに、可愛らしく動き回る美丘が死んでしまうなんて、まるで太一のようだけど、信じられない気持ちでいっぱいだった。
先を知りたいような知りたくないような気持ち。でも、太一と美丘を知ってしまったのだから読み進めるしかない。そんな気分だった。
切なくて、哀しくて、希望に満ち溢れていて、優しくて、凛と強い。そんな物語だった。
いや。それは美丘のイメージかもしれない。でも物語も美丘もそうだった。カバー写真のように、なんだかつるっとしてほんのり暖かな陶器のような手触りだった。
アヒルと鴨のコインロッカー
読了日:2007/04/01
この人は場面転換の使い方が絶妙だなぁ~と確信する。そして時間軸の使い方も計算されつくしていると思う。
そしてどの作品にも奇人(笑)が登場するんだけど、この作品の場合は「河崎」がそれにあたる。
出だしの語り手・椎名は現代、後発の語り手・琴美は2年前を、それぞればらばらに進む。ふたつの時間を繋ぐのは「河崎」だけ。
途中までは本当の繋がりがわからなくてものすごく退屈に感じた。(現代の語り手・椎名があまりにも受動的だからかもしれない)
でも、椎名が麗子さんにあった辺りから、物語は急速に加速!ぐいぐい読んでいけた。
伊坂さんの作品には印象的な言葉がまるで格言のように登場する。それは登場人物が発する言葉だったり、何かの引用だったり。
この話の場合、そんな言葉が過去と現在をリンクさせていく重要な鍵となるわけで。
読み終えた感触はなんだかしんみり。椎名の叔母というのが「陽気な…」の響野の奥様だという細かなリンクにはクスっときた。そして最後の最後には、2年前の琴美が気に病んでいたことがクリアになって、その部分ではとてもホッとした。
青空チェリー
読了日:2007/04/02
3つの短編で、3つとも青春。
表題作はR-18の賞かなんかを獲ってるみたいだけど、まぁ確かにエロ気味かな?
でも最近のコドモタチはマセてるし、18までいかないんじゃないかい?15とかでいんじゃないかい??笑 。
明るくて可愛らしくて若々しくて、まるで新緑みたい。エロさでいけば石田衣良の「娼年」がはるかに上だね。
評価の高い3つ目の「ハニィ、空が灼けているよ」もよかったけど、あたしとしては語り口や進み方は2つ目の「なけないこころ」がよかった。
とにかく青春だ。10代だ。若い。初々しいしまだまっさら。そんな感じ。